マンスリー・ブリコメンド終了のお知らせ

マンスリー・ブリコメンド終了のお知らせ

 
長らくご愛顧いただきましたマンスリー・ブリコメンドは、2017年末を持ちまして終了することとなりました。以下、執筆者と主宰者からのコメントです。

 

2012年9月、当時はまだピックアップのやり方で月に数本おすすめを書くスタイルだった頃のブリコメンドメンバーにならないかと声をかけていただいたのが、私とブリコメの最初のかかわりです。編集者には「有名な人に書いてもらって売れる本をつくる」タイプと「無名の人を発掘して育てる」タイプがいますが、藤原ちからさんという人は、圧倒的に後者です。「書き手を育てる編集者がいなくて、育てないしチャンスも与えないのに書き手がいないってみんな嘆く。そりゃいませんよ」っていう当時の彼の言葉は不思議とよく覚えています。そこから管理人としてブリコメ更新をまかされるようになり、2015年5月には、私が新コンセプトを書き下ろしました。

振り返れば、当時考えていたことも今考えていることも、いくらでも言葉にできそうですし、ブリコメ、BricolaQという場所に自分がどのように育ててもらったのか、大変だった思い出とともに述べることができそうです。ですが、刻一刻と変わる社会、そして何より自分自身の成長に追いつくことに、前向きなエネルギーを使っていくことで今は御礼にかえたいと思います。

今後は弊ユニット、LittleSophyにて、新コーナー「リトル・レコメンド」を立ち上げることとします。メンバーは、茶河鯛一さん、落 雅季子に加えて、ダンサーのAokidさん(!)をお迎えし、3人で旬の公演・イベントをたくさんお届けしたいと考えています。並列と多様性をもって、現代の舞台芸術の強靭さを示すことができれば。

マンスリー・ブリコメンド1期生である、藤原ちからさん、鈴木励滋さん、徳永京子さん、日夏ユタカさん、カトリヒデトシさんはこれで全員卒業なさることになりました。本当に今までありがとうございました。まさか自分が、リーダーの責務および志の幾ばくかを受けついでいくことになるとは思ってもいませんでした……と書いてはみたものの、ほんの少しは思っていたような気もします。自分がこの場から受け取ったものを、形を変えながらも還元していくことが、これからの私の目標です。

今までありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。

落 雅季子

 

励滋先輩、お疲れ様でした。引き続き末席を汚します。よろしくお願いいたします。

茶河鯛一

 

新しい飲食店が開くと気になるのは、単に新し物好きともいえようが、自分にとってかけがえのない店なかもしれないのに、あまり人知れぬままひっそりと閉まってしまうかもしれない、という恐れの方が大きい。評価の定まったものより、何をやらかすか判らない若者たちの舞台を好むのもそれに似ている。もしかしたらわたしの人生に大きな影響を及ぼすような表現に出会えるかもしれなくて、わたしがそれについて書くことで誰かの目にとまって、その人たちが続けていってもらえれば、と偉そうなことを考えていた。
だから、自分自身も観たこともない創り手のものも多かったため、「おススメ」と言うのは憚られて「出没情報」としていた。世の中にいるかもしれない、わたしのようなモノ好きに微かな念波を送るような気持だった。ところがそれも、本業の慌ただしさでもともと週末しかできなかった観劇どころか、チラシの整理すらあやしくなっていた。
ここ数ヶ月は自分にとって欠かせない舞台をいくつか挙げ損じてしまった。ここら辺が潮時かなと思っていたところに、主宰から一区切りつけたいという相談を受けた。
わたしとしてはひとまずここで終わりにしたいと思っている。ワンダーランドの北嶋さんから香取さん徳永さんと「おススメ」のコーナーをやらせてもらったのが2010年。足掛け八年、いくつかの団体をしかるべき人に届けられたのではないかなと思っている。もちろん本数は減りつつも舞台は観つづけるし、ツイッターなどで気まぐれにお薦めもするだろう。またいつかどこかでこんなことをする日が来るかもしれない。でも、今はここまで。

チャガタイさんの支えがなければもっと早く終わりが訪れていたし、落さんには丸投げですっかりお世話になりました。それから、モノ好き仲間のみなさん、またいつか、どこかで。

鈴木励滋

 

6年半の歴史に幕を下ろすことになりました。

最大の理由は、わたし自身の置かれた環境の変化です。日本にいられる時間が短くなり、「観劇数をたくさん重ねる」ことはもう見込めなくなりました。無名の若手の公演を観に行くことで「新たな才能を発掘する」ような仕事もおそらく今後さほど期待できないでしょう。つまり、そうした仕事をすることで専門家としての説得力を担保する、というかつてのやり方はできなくなったわけですね。今後そうしたいとも思わない。インプットの質と量はむしろ増えているので、批評家としてはそれで別に問題ないと考えていますが、とはいえ「日本の演劇」との付き合い方は変わっていかざるをえません。

このマンスリー・ブリコメンドも、わたしはとうに一線から退いていて、最近は管理人の落 雅季子さんや、執筆者の鈴木励滋さん、茶河鯛一さんにすっかりお任せしっぱなしでした。しかし落さんもLittleSophyでご自身の活動を展開し始めている今、いつまでもお三方に甘えるわけにはいかないと感じてきました。

少し、昔の話をします。

2011年7月、首都圏の演劇公演をメインに紹介するコーナーとして、マンスリー・ブリコメンドは始まりました。初回の記事はこちら。設立当初の執筆メンバーは、わたしのほかには、カトリヒデトシさん、鈴木励滋さん、徳永京子さん、日夏ユタカさんでした。懐かしい……。この方々には本当に助けられました。

この頃はまだ、「東京にいれば演劇の最新の動きが追える」という感覚がそれなりに広く共有されていたように思います。しかしその後、演劇の作り手たちのモビリティが高まるにつれて、彼らの活動は国内外の各地へと散らばるようになり、ブリコメンドとしてもなんとかキャッチアップしようと試行錯誤したのを覚えています。

また「演劇」をジャンルとして確定させづらくなったという変化もあります。ダンスとの境界はもちろん、現代美術や他ジャンルとの境界も極めて曖昧になってきました。劇場の外で行われる公演はもちろん、観客参加型のパフォーマンスも今では珍しいものではなくなっている。何をもって「演劇」と呼ぶのか、その定義も人によって異なるはずです。

わたしは基本的には、こうして拡散し多様化する「演劇」のメタモルフォーゼを歓迎しています。劇場で培った「観る目」をベースにしながらも、今後、この「演劇」の未知なる動向を、ひとりの批評家またはアーティストとして追っていきたい。

でも、どこへ、どうやって?

これが問題です。世界は圧倒的に膨大に広い。わたしはそれなりに海外によくいる人だと認知されているかもしれませんが、いわゆる「演劇の聖地」とされそうなギリシャにもイギリスにもロシアにも未だに足を踏み入れてないんですよね。それより今はまず南シナ海に興味があるので、「演劇の聖地」を訪れるのはきっと行けたとしてもずいぶん先になるでしょう。あるいは国内にしてもそうです。最近滞在することの多い関西エリアでさえ、とてもとても、そこで起きていることを網羅なんてできない。(京都から神戸、意外に遠いねんな!)

こうなると役割分担が必要だと思うんですね。記事を書く人、つまり批評家やジャーナリストやライターにも適性があって、得意分野も志向性も違う。だからまあ他人への違和感とか軽蔑とかも生まれやすいとは思うのですが、逆に言えば、だからこそ役割分担ができるはず。というかそうしないことには、メタモルフォーゼし続けるこの化け物みたいな「演劇」をカバーすることなんて到底不可能でしょう。

実はというと、とてもカバーしきれないという意識があったからこそ、ここまでマンスリー・ブリコメンドをBricolaQのサイトで維持してきたとも言えます。自分がフラフラと各地をさまようからこそ、東京を中心とした観劇情報がしっかり一望できるサイトを、自分の手に抱えていたいと思ってきた。ある意味では、しがみついてきたわけです。まあそこまで自分を卑下する必要もないですけど。創始者としての思い入れもあったし。

でもようやく、手放す(手渡す)時が来ました。

マンスリー・ブリコメンドはここで終了しますが、これまで管理人を務めてくれた落さんがご自身のサイトLittleSophyで新たに観劇情報コーナーを立ち上げてくださるというので、これで安心して「役割分担」できます。わたしの精神はいっそう自由になるでしょう。そして遠くどこかの土地から一読者として、「ほほう、今、東京方面ではこういう公演があるのかあ……」と他人ごとのように眺めてみたい。

「他人ごと」と書くと無責任に聞こえるかもしれません。しかしわたしは今この言葉をかなりポジティブなものとして捉えています。広い世界を相手にするとなると、「すべてを網羅することはできない」というある種の諦念を引き受けていくしかない。「他人ごと」とは、裏を返せば、広大な世界に対するみずからのちっぽけな有限性を認識し、他人を信頼して委ねる……そんな言葉にもなりうるのではないでしょうか。他人を他人として尊重することは、年々難しくなっているようにも感じています。SNSの断片的な情報で他人のことをわかったつもりになるのではなくて、実際にこの世にやわらかな肉体を持ち、息をして、今日も朝を迎え、夜を過ごしている、その、他人に流れているはずの静かな沈黙の時間を、わたしは信じたいと思っています。

わたしは、そんな他人のひとりである落さんが新しく立ち上げるコーナーに特に何も「期待」はしていません。執筆メンバーに新たに加わるらしい人の意外な名前(Aokidさん)を聞いて「へえー、それは面白そうじゃん!」とつい頬が緩んだのは事実ですが、やはりその人にしても他人ですので、好き勝手に跳躍していただきたいと思っています。もちろん他人同士、何かについてちゃんと話し合わなければならない時もあるし、一緒に仕事をしたり、必要であれば一戦交えることもあるかもしれません。それはまたその時の話です。落さんはじめ、今後その新設コーナーに関わっていく人たちには、ただシンプルに「楽しんでくださいね」とエールを送りたいです。

最後になりますが、これまでマンスリー・ブリコメンドに関わってくださった書き手のみなさん、そして毎月楽しみにしてくださったみなさん、ありがとうございました。

2017年12月31日 藤原ちから